カンボジア進出の法人形態は6種類

外国企業や外国人の方がカンボジアへ進出する際は、主に駐在員事務所、支店、現地法人、パートナーシップ、事業協力契約、個人事業主の6つになります。その中で多くの場合に現地法人の形態が選ばれ、カンボジアの投資法上、適格投資プロジェクト(Qualified Investment Project)の適用があるのも現地法人のみとなっています。

駐在員事務所(Representative Office in Cambodia)

駐在員事務所は、本国に本社が存在することが前提となっており、本国の親会社との業務連絡や情報収集を目的とした形態です。業務範囲は限定され、商品の販売や建物の建設といった利益を獲得する事業活動全般が許されていません。そのため、付加価値税(VAT)や法人税は課税対象外となりますが、従業員に対する個人所得税(給与税)や源泉徴収税、年間事業税に対する課税は対象となり、毎月の税務申告が必要になります。

所在地カンボジア国内の住所を商業省および税務総局に登録。
駐在員事務所名親会社の称号に同じ。称号の前に「Representative Office」と入れる。
事業内容市場調査、宣伝活動、連絡業務に限定される。雇用契約、賃貸借契約、水道光熱費の契約を除き、全ての契約の主体となることはできない。
納税義務課税対象:個人所得税(給与税)、源泉徴収税、年間事業税 対象外:付加価値税(VAT)、法人税

支店(Branches)

支店は、独立した法人格は有せず、支店の資産も債務も本国の親会社に直接帰属します。法令で外国企業に対して禁止されている行為を行わない限り、カンボジアの内国法人と同様に定期的な商品の販売、製造、加工やサービスの提供など外国企業の一部として幅広い事業活動を行うことができます。カンボジア内国法人と同様の課税義務を負い、会社の判断により閉鎖することができます。支店の場合は、定款の作成と資本金の払い込みが不要で、取締役会などの実施義務もありません。

所在地カンボジア国内の住所を商業省および税務総局に登録。
支店名親会社の称号に同じ。称号の前に「Branch」と入れる。
事業内容内国法人と同様の権利能力が認められます。
納税義務内国法人と同様の納税義務を負います。

現地法人

カンボジアの現地法人は原則「有限責任会社」となり、外国人または外国企業の100%出資による設立が認められています。1人以上で、会社定款(Articles of Incorporation)を商業省に届け出ることにより設立でき、会社登記の日をもって会社は公的存在となり法人格を獲得します。

称号固有の称号を設定することが可能。
資本金1株あたり額面4,000リエル以上で最低1,000株を発行する必要がある。最低資本金は4,000,000リエル(約1,000US$)。
責任範囲 有限責任であり、株主の責任は各自出資した資本金の範囲に限定される。
所在地カンボジア国内の住所を商業省および税務総局に登録。
取締役非公開有限責任会社の場合は1名以上、公開有限責任会社の場合は3名以上の取締役を任命する必要がある。取締役は、自然人である必要がありますが、国籍や居住地に関する制限は存在しません。取締役会議は3ヶ月に1度以上の開催が法律によって義務づけられる。
課税対象法人税、源泉徴収税、個人所得税(給与税)、付加価値税(VAT)

パートナーシップ(Partnership Company)

パートナーシップは、医者や弁護士、会計士などの専門家に適した形態です。日本の会社法における合名会社に近い概念の一般パートナーシップ (General Partnership)と、日本の会社法における合資会社に近い概念の限定パートナーシップ (Limited Partnership)の2種類があり、どちらも2名以上の者が利益を獲得する目的で共同事業体を形成するために契約を交わすものです。契約は口頭または書面で可能であり、法律書類は特に必要ありません。実務上利用されるケースはあまり多くありません。

事業協力契約(Business Cooperation Contract)

事業協力契約は、カンボジア政府または公的機関と共同事業を行い、その事業に出資する代 わりに利益配分を受ける形態です。新たに法人を設立するのではなく、事業活動から収益を分け合います。カンボジア国内の事業協力契約については、数事例認められています。

個人事業主(Sole Proprietor)

カンボジアは珍しく外国人でも個人事業主の登録が可能です。法人等を設立せずに商業省で登録することができます。法人の設立に比べて手続きも簡単で費用も低額ですが、許可される事業が1社1事業に制限される点と、事業者個人にも責任が及ぶリスクがある点は注意が必要です。

メリット必要書類が最小限で済み、設立が迅速で簡単。個人事業者が全ての経営上の決定を行うことが可能。
デメリット 事業の負債と責任に対して無限責任を有するため、事業の負債を清算することができない場合には、事業者個人の資産を失う可能性がある。

現地法人は3種類

進出形態にはおおよそ6種類ありますが、多くの場合に現地法人の設立が選ばれます。現地法人にもいくつかの形態があり、外国法人や外国人がカンボジアに現地法人を立ち上げる際は以下の「(2)私的(非公開)有限責任会社」を選択するのが一般的です。また、最低資本金額は400万リエル(約1,000USドル)となっていますが、商業省は5,000USドル以上を推奨しているため、法律と実際の運用の乖離には注意が必要です。

  1. 公開有限責任会社 Public Limited Company
  • 株主は出資の限度で責任を負う
  • 株主数の制限なし
  • 取締役3名以上
  • 株式市場で株式を発行可

2. 私的(非公開)有限責任会社 Private Limited Company

  • 株主は出資の限度で責任を負う
  • 発行済株式の譲渡制限あり
  • 株主2名以上30名以下
  • 取締役1名以上
  • 株式市場での株式発行不可

3. 単独株主有限会社(一人会社) Single Member Limited Company

  • 株主1名のみ
  • その他は私的(非公開)有限責任会社と同様です。

有限責任会社への出資比率は、100%カンボジア資本、100%外国資本、カンボジアと外国資本の合弁の3種類で、会社法により外資51%以上は「外国法人」、50%未満は「内国法人」と定義されます。土地の取得や一部の不動産の売買を行うことができるのが内国法人に限定されるように、業務の可能範囲に違いがあります。

現地法人設立の流れ

私的(非公開)有限責任会社の場合

  1. カンボジアへの進出が決定したら、場所・形態・商号・業務内容等を決めます。
  2. 商業省で商号(会社名)を予約します。
  3. 商業省に商業登記申請します。
  4. 租税総局で認証し、各種税務登録をします。
  5. 必要なライセンスを申請します。
  6. 労働省に事業所開設申告や従業員雇用の申請を行います。

個別ライセンスの取得が必要な業種の一例

業種監督省庁備考
飲食店観光省審査あり
ゲストハウス観光省審査あり
ホテル観光省審査あり
旅行代理店観光省保証金の支払いが必要
不動産サービス業経済財政省無犯罪証明書の提出要
保険ブローカー業経済財政省無犯罪証明書の提出要
通関業関税・消費税総局通関に関する専門家が必要
運送業公共事業運輸省車両登録も必要
診療所、病院保健省代表者は要カンボジア国籍
法律事務所弁護士協会代表者は要カンボジア国籍
海外人材派遣業労働職業訓練省代表者は要カンボジア国籍
教育機関教育・青少年・スポーツ省審査あり

現地法人の主な税制

カンボジアの税制では、月次申告と年次申告の義務があります。現地法人は法人税(事業所得税及びミニマム税)、源泉徴収税、個人所得税(給与税)、付加価値税(VAT)が課税対象となります。カンボジアは二国間の二重課税防止協定(租税条約)締結を始めています。日本とはまだ未締結です。

□下記4項目について毎月20日までに月々の税金を算出し申告書の提出及び納税義務があります。

  • 法人税(売上の1%を納税:ミニマム税)
  • 源泉徴収税(役務提供等の支払に伴い一定税率を預り納税する)
  • 個人所得税(給与税ともいう、給与に対する所得税)
  • 付加価値税(VAT:標準税率10%)

□年間の法人税申告書(法人税年次申告書)を翌年3月31日までに提出する必要があります。毎年3月31日までに事業所得税(年間の法人税)を納付しパテント証明書を更新します。

カンボジアの法人税は、毎月の売上の1%を納付します。ミニマム税と呼ばれ、前払い法人税の扱いです。ミニマム税を納めた上で、経費などを差し引いた年間の法人税を計算します。表面税率は20%です。その時、ミニマム税で納めていた総額を上回る場合は差額を納付します。下回る場合は、還付はされず翌年に持ち越されます。

従業員の雇用

従業員の雇用には労働法の規定があります。労働時間が1日8時間、週48時間以内であることや週6日を超えての労働は認められないなど日本でも馴染みのある規定が定められています。

また、外国人が就業する場合は労働許可書(Work permit)と雇用カード(Employment card)が必要です。これらはカンボジアでは1つのカードになっていて、会社が発行する必要があり怠った場合は罰金が課せられます。